かつて「無料で使えるソフトウェア」や「無料で使えるサービス」は、人々にとって当たり前の存在だった。誰もがインターネットにアクセスし、ブラウザを開き、検索エンジンを利用する。その対価として直接的に支払いを行うケースは稀で、むしろ巨額の維持コストを抱える企業がどうやって無料提供を成立させているのか、不思議に思うことすら少なかった。いつしか「ソフトウェアはただ同然」という感覚が、私たちの行動や思考の奥にまで染み込んでいった。
その一方で、高度な機能やプロ向けツールは堂々と有料化され、「性能を求めるなら金を払う」という構造が確かに成立している現場もある。たとえば企業向けのクラウドサービスやサブスクリプション型ソフトウェア、さらにはカスタマイズされた専門システム。こうした分野はむしろ「無料では成り立たない」世界観をベースに動いているのだが、日常生活の表面にはあまり顕著に現れない。それゆえ、一般利用者からすると「なぜあれは無料で、これは有料なのか」その線引きが曖昧に感じられる。
そして今、検索エンジン以上に強力な知的機能をもたらすと期待されるAIが、インターネットの最先端を揺るがしている。自然言語処理による高度な対話型AI、画像や音声の認識・生成を行う大規模モデル。これらをどうやって運用し、収益を得るのか。それとも、かつての検索やブラウザのように無料解放されるのか。AIモデルのトレーニングには莫大な電力とハードウェア投資が要り、その更新も絶え間なく必要である。いったい誰が、どこでコストを支えるのか。
導入の段階では「ソフトウェア無料神話とAIの将来」というテーマに目を向けつつ、それぞれの裏側にあるビジネスモデルやデータ活用の実情を見きわめたい。
ここから先は、検索エンジンとAIの仕組みを対比しながら、なぜ多くのサービスが無料で提供され得るのか、そして実際にはどのようなコストが発生しているのかを徹底的に掘り下げる。そこには意外な盲点や、「自分自身が知らぬうちに差し出しているもの」が潜んでいる。今の時代を生きる一人ひとりが、その構造を理解し、どう行動すべきかを考えるヒントになるはずだ。
この導入を終えた時点で、次の疑問が立ち上がる――「無料ソフトウェアの本質とは何か」「AIの運用コストを誰が負担し、どんな形で回収するのか」。次項では、それを深掘りするための具体的な仕組みや実例、さらには検索エンジン・SNSにおける“見えないコスト”の実態から考察を始めよう。
──この先の展開では、はじめに無料ビジネスの構造とAI特有の運用コストがどのように絡み合っているのかを整理する。その過程で、高度なAIに特有の広告モデルやB2Bプラン、データ活用の可能性を明らかにしつつ、新たな課題やリスクを指摘していく。最終的には、無料であることが本当に良いことなのか、人間は何を犠牲にし何を得るのかを問う結論へと至りたい。
無料神話の背景にある広告モデルとデータビジネス
検索エンジンが歩んだ「無料の道」と広告ビジネスの台頭
検索エンジンやブラウザは誕生当初からユーザーに料金を課す姿勢をほぼ見せなかった。巨大プラットフォーマーが選択したのは、広告を中心としたビジネスモデルである。ユーザーが検索画面やウェブページを見るたびに、広告が一定のクリック率で表示され、そこから収益を得る構造が築かれた。さらに、ユーザーの検索履歴や閲覧傾向、地理情報などを解析することで広告のターゲティングが精緻化され、クリック率やコンバージョンが飛躍的に向上していった。
広告モデルという手法は、多くの利用者を獲得するために料金を取らないという戦略と非常に相性がいい。「無料」という入り口で利用者を大量に抱え、そのビッグデータを活用して広告主とマッチングさせる。ユーザーにとっては財布から直接の出費がない代わりに、自分の閲覧データや検索キーワードが広告プラットフォーマーの学習材料となる。
人々は自然に「検索エンジンが無料なのは当然」という感覚を受け入れ、それが“当たり前”となった。ところが、ここで見落としがちなのは「無料ではあるが、データを差し出している」という事実だ。多くの場合、検索エンジンやSNSの利用規約には、ユーザー情報の収集・解析・広告用途への提供がしっかりと記載されている。つまり「金銭」ではなく「個人情報」や「行動履歴」という形で代価を支払っている。
この広告モデルは、圧倒的な規模感(数十億〜数百億人レベルの利用者)を抱えるからこそ成立しているとも言える。インターネットの世界で大半の人々がGoogleを検索窓口とし、ソーシャルメディアで生活の記録を投稿する現代。広告を適切に当てるだけでも莫大な利益を上げることが可能になり、結果として「サービス自体は無料でユーザーに開放しても採算が取れる」というサイクルが完成した。
ただし、このモデルは「拡大と維持が難しい」という側面ももつ。ユーザーを増やすためには常にサービスをアップデートし、人気を維持し、広告の精度を上げなければならない。そこには相応のコストがかかるが、ユーザー離れが起こると広告収入が落ちるリスクも孕んでいる。巨大すぎるシステムゆえの固定費と、その維持のための延々としたアップデート作業。検索エンジンの裏舞台では、数え切れないほどのエンジニアとデータセンターがフル稼働を続けている。
(──この項目の最後に、一筋縄ではいかない広告モデルの持続可能性というテーマをさらりと提起しておきたい。次の見出しでは、ユーザーが提供している“コスト”の中身、そしてAI時代にそのモデルがどう変化しうるかを深掘りする。)
ユーザーが知らないうちに支払っているコストの正体
無料サービスを利用するとき、私たちは金銭の授受がないことで安心しがちだ。だが、その安心は表層的に過ぎない。実際には以下のような形で様々な対価を支払っている。
- 個人データの提供
検索キーワード、閲覧サイト、位置情報、クリック履歴…こうしたデジタルフットプリントがすべて蓄積され、企業の巨大データベースの一部として解析される。AI時代になると、この行動ログの精度がさらに増し、ユーザーの趣味嗜好はもちろん、パーソナリティ傾向や心理状態まで推定可能になる。 - 広告への注意リソース
ネット上の広告を見た瞬間、ユーザーはわずかでも情報処理リソースを割いている。これが繰り返されると、「無料でサービスを使えた」という満足感の裏で、膨大な広告を見せられ続けるという現実を受け入れていることになる。時間と視線の一部を企業に無償提供している格好だ。 - 自己検閲やプライバシーのレベル低下
常に閲覧履歴や入力内容が監視・解析されていると感じると、ユーザーは検索ワードやSNSでの投稿内容を変化させるかもしれない。その結果、インターネット上で発信する言葉や行動が、無意識に“最適化”されていく危険性がある。無料ではあるが、自由な行動やプライバシーという観点から見るとコストがかかっているといえる。 - 利用規約の形骸化
多くの無料サービスには長大な利用規約が存在し、その中にデータ利用や免責事項、責任の範囲が詳細に示されている。膨大な文章を読まずにチェックを入れてしまう人が多い以上、「本当は合意していないかもしれない契約内容」に承諾したことになっている可能性がある。これもまた、見えないコストの一種だ。
AIの世界においては、利用者がやり取りするテキストや画像、音声データがそのままモデルの学習素材となり、高度化されたサービスに反映される。大規模言語モデルは、ユーザーからの入力を学習することで回答精度を上げ、さらにユーザーを増やす。無料で使える便利なAIという恩恵の裏で、ユーザーが提供する“燃料”が絶えることなく注ぎ込まれているわけだ。
そして、こうしたデータ活用の効率が急激に高まっている今、無料のAIサービスがさらに拡大する可能性はある。一方で、その拡大の先にどんなプライバシー侵害やデータ管理リスクが待ち受けているのかは、まだ明確ではない。全体構造を俯瞰すると、「ただより高いものはない」という古い格言が、より深みを増すかもしれない。
(──ここまでで、広告モデルとデータ活用が無料提供の大きな支柱であることを整理した。だが、AI分野ではこれだけでは説明できない要素がある。次のセクションではAI特有の莫大な運用コストと、それを補填するビジネスの仕組みを掘り下げる。)
AIならではの運用コストとビジネスモデルの多様化
大規模言語モデルに必要なGPUリソースと電力コスト
AIと一口に言っても、特に大規模言語モデル(LLM)をはじめとする先端的な生成系AIでは、通常の検索エンジンやSNSとは比べ物にならないほどのハードウェアリソースが必要になる。大量のテキストデータを学習するフェーズでは膨大なGPUサーバーを稼働させ、その分の電力や冷却コストがかかる。加えて、完成したモデルをユーザーが利用する“推論”の段階でも、単なる検索クエリの処理をはるかに上回る計算量が必要とされる。
このコストは決して無視できる額ではなく、メジャーなAI研究機関や企業が提示する予測によれば、年間の電力消費やサーバー投資が数億ドルを超えるとも推定される。従来の検索サービスですらデータセンター維持に膨大な費用がかかっていたが、さらに上乗せされるAI特有の演算負荷をどう賄うのか。仮に完全無料でAIを解放した場合、その運用企業は莫大な赤字を抱え込むリスクがある。
こうした現実を踏まえ、「広告収益だけでまかなえるのだろうか」と疑問を呈する声が増えている。もちろん広告モデルを強化すれば理論上は可能かもしれないが、AIの推論コスト自体が増大すると、単純な「ユーザー×広告費」だけではまかないきれないかもしれない。結果として、有料プランや法人向けの専用サービス、API利用料などを設定する戦略が有力となる。
フリーミアムとエンタープライズプランの台頭
クラウドソフトウェアの世界では、フリーミアムというビジネス手法が既に定着している。一般ユーザーには基本機能を無料で提供し、多くの利用者を一気に獲得する。しかし、ビジネスユースに耐えうる拡張機能や高いサービスレベル(SLAs)、専用サポートなどを提供する段階で料金を設定し、大口顧客から利益を得るモデルだ。
AI分野でもこれと同じ流れが顕著になっている。個人が楽しみや学習目的で試すには無料版の範囲で十分な機能を開放しつつ、本格的な業務利用をする企業には高額な月額料金やAPI呼び出し料金を提示する。さらに「プライベート環境で動かしたい」「社内の機密データを安全に扱いたい」という要望に応えるエンタープライズプランを用意する場合もある。
このモデルは多くのユーザーを一括で取り込み、さらに企業向けの課金で高収益化を実現するというメリットをもつ。無料ユーザーからも学習用データを得られるため、サービスの精度や魅力は増していき、結果として有料プランへの移行を促しやすくなる。利用者視点からすれば、無料版だけでも満足できるかもしれないが、さらに高度なサポートやカスタマイズを求めるタイミングが来れば、渋々でも費用を払う選択が自然になる。
広告による収益補填の可能性と問題点
一方で、広告モデルをAIに応用する動きは確実に存在し、実際に既存の検索エンジンがチャットAIを統合する形で進行しつつある。ユーザーがAIに何かを尋ねた際、回答の途中に広告やプロモーション情報を差し込む。あるいは回答の文脈に応じた製品紹介が表示される。これを嫌う利用者も一定数いるだろうが、うまく設計すれば「ユーザーの意図や状況にマッチした広告をタイミング良く提示できる」という理想形になるかもしれない。
ただし、AIによる自然な言葉づかいの回答に広告が紛れ込むのは、検索結果ページやSNS上のバナー広告よりも“ステルス”になりやすい。無自覚に広告を受け取りやすいという点で、ユーザーは情報の透明性を侵害されていると感じる可能性がある。さらに、AIの回答が広告主の都合で歪められるような事態が生じれば、サービスの信頼性を大きく損なう。
AIには従来のウェブ検索と違い、ユーザーが「対話相手」として人格的な信頼を置く場面が増えている。そこに露骨な商業的インセンティブが混入すると、人々の心理はどう変化するか。広告主から見れば絶好のターゲティング機会だが、利用者がそれを望むかどうかは定かではない。広告モデルの発展か、それともフリーミアム+法人向けのサブスクか。AIサービスが収益化する道筋はまだ固まっておらず、さまざまな実験と競争がこれから本格化すると考えられる。
(──AIのコスト構造とビジネスモデルの話をしたところで、次はより本質的なテーマに移りたい。無料で利用するAIの危うさ、隠れたリスク、そしてプライバシーやデータ管理への課題である。ここから先は、私たちが知らず知らずのうちに差し出している“個人情報”と、それを収集し利用する企業の動向をより深く探っていく。)
無料AIがもたらすプライバシー・データ活用上のリスク
入力データがそのまま学習に使われる現実
言語モデル型のAIはユーザーからの入力(プロンプト)を読み取り、それをヒントに回答を生成する。多くのサービスで利用規約を確認すると「ユーザーが入力したテキストや添付ファイルをモデルの学習データとして活用できる」と明記している場合がある。個々の企業やサービスによって程度の差はあるものの、「入力がモデルの再学習に自動的に組み込まれるかもしれない」という認識は持っておいたほうがいい。
この仕組みはサービスの向上というメリットをもたらす反面、もし機密情報や個人的な日記、企業の内部データなどを軽率に入力してしまえば、その断片が学習されて別の利用者へ回答の形で漏れるリスクもゼロではない。AIの回答に第三者の固有情報が混ざる事件が報告された例もあるように、一度学習に取り込まれた情報の扱いを完全にコントロールするのは難しい。
「無料だから大丈夫」という意識のまま詳細な情報を入力していると、後になって思わぬところで機密情報が表に出てしまう事態が起こり得る。無料サービスにおいては利用規約の免責範囲が広いため、万一のトラブルが生じても企業が責任を取らないケースが多い。それこそが無料利用の“盲点”であり、「本当にリスクを理解しているのか」と常に問い直す必要がある。
プライバシー規制と法的リスクの増大
欧州連合(EU)のGDPR(一般データ保護規則)などに代表されるように、個人データを守るための法制度は近年ますます厳格化している。インターネットサービスに対しては、データ収集や処理に関する透明性、利用者同意の取得、適切なセキュリティ対策などが求められる。AIが世界的に普及すればするほど、こうした規制との整合性が問題化するのは必至だ。
無料サービスの運営企業としては、法的コンプライアンスを満たすためにより綿密な監査体制と技術的対策が必要になる。しかし、ビジネス上のコストが増大すれば無料提供の継続が難しくなる矛盾も起こりうる。結果として、一定以上のデータ保護を求めるユーザーから課金してもらうことでコストを賄うという選択肢が出てくるかもしれない。無料か有料か以前に、「法的リスクをどう管理するか」という観点でAIサービスの未来は左右される可能性がある。
ユーザー行動の誘導とアルゴリズム支配
AIが無料で提供される世界では、膨大な対話ログや行動履歴がサービス提供側に集まり、それを活用した新たなアルゴリズムが構築される。そのアルゴリズムがユーザーの意思決定に対して影響力を持つようになると、もはや検索やSNSどころではない「潜在的コントロール」が進行するかもしれない。
たとえばAIチャットボットが、ユーザーの質問に答えながら間接的に特定の商品を推奨したり、あるいは政治的イデオロギーを刷り込むような回答を返したりすれば、知らず知らずのうちに人々の思考や行動を操作する余地が生まれる。ここに広告モデルが絡むと、広告主の意向がアルゴリズムに組み込まれ、対話の方向性を歪める可能性も否定できない。
このリスクは「AIが有料か無料か」に直接左右されるわけではないが、無料サービスほどユーザー数が増大し、影響力も高まりやすい。すると、プラットフォーマーが何らかの利益誘導を行う余地が広がるという点で、「無料」×「AI」という組み合わせは強力な社会インパクトをもたらす。利便性と引き換えに巨大な権力を企業に集めることにならないか、今のうちから健全な疑問を持つことが大切といえよう。
(──AI無料化のリスクやプライバシー上の問題をここまで挙げてきた。次に、実際にAIがどのような形で有料化・無料化されていくか、その具体的シナリオと近未来の展望に踏み込む。そこではB2B特化の高単価プランやフリーミアムのさらなる進化、そして広告モデルの進路などが交差する。)
未来シナリオ:AIは無料か有料か、二極化する世界
消費者向け無料+データ収集モデルの進化
検索エンジンの黎明期を思い出すと、ユーザーを大量に獲得し、その行動データや嗜好データを解析することで広告価値を高める戦略が成功した。大規模言語モデルも同じ轍を踏む可能性がある。ユーザーに無料で使わせ、彼らが対話した内容や操作履歴を吸い上げることでモデルの精度をさらに上げる。精度が上がれば一層多くのユーザーが集まり、また精度が上がる…という成功スパイラルだ。
このシナリオがうまく回れば、広告を上手に挿入しつつも対話の質が担保され、企業は巨額の広告収益を得られる。ユーザーは月額料金を払わなくても高度なAIサービスを使える。だが、裏では極めて高度なターゲティングが行われ、個人の隠れたニーズや弱点を突く広告が押し寄せるかもしれない。さらに、企業の方針や政治的意図が回答に微妙なバイアスをもたらす懸念も残る。
フリーミアムからエンタープライズへ:B2Bの収益源
一方、企業や専門家が業務にAIを導入すれば、それだけで大幅な生産性向上やコスト削減を期待できる場面が多い。たとえば法律事務所や医療機関、製造業の設計部門などで、高度な文章生成や画像解析を利用すれば、事務作業の削減や品質向上が見込まれる。そうした場面で「無料の一般公開版」を使うのはセキュリティ上もリスクが大きく、実務ニーズを満たすには制約が多い。
ここに「有料プラン」「エンタープライズプラン」が登場する。社内専用のAI環境をクラウド上で構築し、データを外部に漏らさない設計とし、24時間体制のサポートやカスタマイズ機能を提供するのが典型だ。月額料金が非常に高額でも、導入により得られる業務効率化のメリットが確実に上回れば、企業側は契約に踏み切る。さらに企業の数が増えれば収益が安定し、開発企業は無料ユーザーに引き続きサービスを提供しても損失が出にくい。
こうして「一般向けには無料、または安価で使える範囲を開放」「本格利用やB2B向けには有料プランでコストを回収」というフリーミアム戦略がますます加速する。SaaS業界で成功を収めた手法が、そのままAIに適用される図式だ。大半の個人ユーザーは無料版で楽しみ、一部のプロフェッショナルや組織は対価を払ってより高度な機能を使う。実際、クラウド型のオフィススイートや共同作業ツールなどが、この仕組みで世界中に普及している。
中長期的に見た「分断」のリスク
「無料で使えるAI」と「有料で独自環境を構築するAI」が並行して発展すると、社会的にはある種の分断が進むかもしれない。大規模なデータを享受して爆発的に洗練される無料AIがある一方、機密性や独自情報を保持したまま静かに精度を高めていく有料の専用AIがある。
公共性の高いサービスは無料AIをベースに大衆へ提供されるが、そこには企業や政府、広告主の思惑が介在しやすい。企業や富裕層は高い料金を払ってプライベートなAIを保有し、そこではより正確でカスタマイズされた情報や優れたサポートを受ける。情報格差やサービス格差が拡大する可能性がある点は無視できないだろう。
さらに、法規制によって「ある国や地域では無料AIにアクセスしづらい」「ある業界では独自AIの導入が必須になる」といった状況も考えられる。AIによるイノベーションが普遍的に共有されず、社会経済的な境界線がより明確に引かれていく。テクノロジーの進化が平等をもたらすという理想と、現実のビジネス・政治が絡む複雑な構図とのあいだに大きな溝が生まれるかもしれない。
(──ここで未来のシナリオを複数提示したうえで、いよいよ最終的な結論と提言へと向かいたい。「AIは無料化されるか」という問いに対する答えは一筋縄ではいかず、多面的に考える必要がある。次のセクションで総括を行い、AIを利用する我々はどんな行動と認識を持つべきかを示唆してみよう。)
まとめ
テクノロジーが進化するほど、人間は「より便利なもの」を求める。そして、より便利なものに対しては厳密なコスト意識を払わず、「無料」という言葉に飛びつく傾向がある。ブラウザも検索もSNSも無料が当たり前だと感じる時代にあって、AIも同じ道を辿るだろうと主張する声は決して少なくない。しかし、本編を通じて見てきたように、AIの背後には想像以上に巨大な運用負荷とビジネス上の仕組みが存在し、一概に「完全無料化」だけを指向できるわけではない。
運用企業からすれば、AIの学習・推論を支えるサーバーリソースと電力コストは膨大であり、その資金を回収する方法がなければ破綻する。広告モデルやフリーミアム、エンタープライズ向けプランなど、多岐にわたる収益化戦略が展開され、時には複数の手法が組み合わさっていく。ユーザーが無料でサービスを使うたびに、個人データや行動ログがモデルの改善と広告価値の増大に貢献する構造も加速するだろう。
一方で、無料AIを使う際に私たちが支払う“見えないコスト”が拡大しつつあることも事実だ。プライバシーの侵害、データの流出リスク、広告バイアス、意思決定への誘導など、ユーザーが知らないうちに多くのものを差し出している可能性が高い。安易に「無料なら得」と考えるのは危険であり、サービスを利用する際には少なくとも「利用規約」と「データの扱い」に意識を向ける必要がある。
AIが一層高度化して生活や仕事のあらゆる面に溶け込む未来では、無料で利用できる領域と高度に有料化された領域が同時に存在し、両者の差が拡大するシナリオも十分あり得る。大衆向けサービスは「個人データと引き換え」に無料で使えるが、高い精度やセキュアな環境が必要なビジネスユーザーは高額なサブスクリプションを支払う。これが常態化すれば、経済格差だけでなく情報格差までもが広がる恐れがある。
それでは、私たちはどう行動し、何を意識すればいいのか。結論としては、以下の三点が挙げられる。
- 無料を疑う姿勢をもち、利用規約やデータ収集の実態を把握する
完全無料のAIが登場した場合でも、その裏にあるビジネス構造やデータ利用ポリシーを必ずチェックする。長大な利用規約でも概要を把握し、何が学習データになり、どんな広告モデルが使われているかを意識的に確認するだけでもリスクを減らせる。 - 必要に応じて有料サービスを選択し、コントロールを取り戻す
たとえ費用がかかっても、安心して利用したい場合や高度なサポート・カスタマイズが欲しい場合は、有料プランやエンタープライズプランを利用する選択肢を検討する。無料AIに比べてサービスレベルやデータ管理が厳格なケースが多く、長期的なコストパフォーマンスを考慮すればメリットが大きい場合もある。 - データの自己管理と社会的議論への参加
AIが生活の細部まで浸透すればするほど、一人ひとりがデータをどう扱うか、自分の言動がどこまで監視されるかに対する責任が増す。企業や政府、技術者の動向を知り、法規制の強化にも注目しながら、自分自身のデータを守りつつAIの恩恵を享受する道を探る必要がある。過度の恐怖に陥る必要はないが、情報を鵜呑みにせず冷静な判断を下すために、社会全体での議論と学習が不可欠になる。
このように「AIは将来無料になるのか、有料化が進むのか」という問いに対しては、実態として両方が混在する構図になりやすいと予測できる。まるでインターネットが「広告付きの無料コンテンツ」と「サブスクリプション制の有料コンテンツ」を共存させてきたように、AIもまた多様なビジネスモデルを抱えながら進化する。そして、そのどのルートを辿るかは、私たち利用者一人ひとりの選択に委ねられているのかもしれない。
最後に、未来に向けた大胆な提言と予測を添えて、この長い物語を締めくくる。もし技術の進歩が極限まで加速し、あらゆる分野の専門知識やクリエイティビティまでAIが肩代わりするようになれば、無料化はさらに進むかもしれない。多くの基本的なAI機能がインフラ化し、電気や水道と同様に“当たり前の公共サービス”になるシナリオも一考に値する。だが、その場合でも、ユーザーのデータがどこかに流れ、誰かに管理されている事実は変わらない。無料であればあるほど見えない領域で誰かが利益を得る構造が生まれやすく、私たちはそこでしっかりと“契約”を意識しなければならない。
最終的に問われるのは「自分は何に価値を置き、何と引き換えに便利さを手にしたいのか」である。個人の選択、企業の選択、そして社会の選択。その総体がどのようなAIの未来を創り出すのか、いま私たちは歴史的な転換点に立たされている。ここには不安と同時に大きな可能性があり、その可能性を拓く鍵は常に私たち自身の目と手に握られている。問いかけは終わらないが、だからこそ想像力を絶やさず、一人ひとりが主体的に選び取る時代が始まったのだ。
──ここまでの長い考察を終えた今、読者がもし「無料サービスを漠然と信用しすぎていた」と感じたり、「もう少しデータの扱いに慎重になるべきだ」と考えてくれたなら、本稿は一つの役割を果たせたと信じたい。そして次の行動として、使っているAIの利用規約に目を通すのもいいし、友人や同僚と「AIって無料でいいの?」と意見を交わしてみるのもいい。些細なアクションを起こすだけで、世界が少しずつ変容するきっかけになるかもしれない。恐れる必要はないが、目を背けるのも危うい。そろそろ目を凝らして、無料と有料の境界線がどこに引かれるのかを見極める旅に出る時が来た。
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「ネット集客と販売を自動化するなら, 最低限これだけは知っておきたい」という内容を1冊の教科書としてまとめました。
また, 最近のAIの台頭を受けて, これをどう捉え, どう使うかといった内容も加筆しています。
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1月15日 17:31
投稿者プロフィール
-
近況:Netflix, ゲーム, 旅, 趣味の日々。
■趣味
読書, 映画鑑賞, 音楽, 旅行
■ビジネス歴
・2011年9月頃にオンラインビジネスに参入
└ブログ, SNS運用, YouTubeなどの各ジャンルを経験
・オンラインビジネスチームへの参画
└各プロモーションのディレクター兼コピーライター,
他社へのコンサルティングなどを経験
└他社とのジョイントベンチャー(共同事業)
└海外スタートアップへの参加(コミュニティマネジメント, コピーライター)
■現在
・オンラインスクールの運営
・個人, 法人向けのマーケティング, 商品開発等のサポート
■考え方
バイト, 会社員, フリーランス, 経営者...などの働き方を経験した結果,
「群れるより1人で稼ぐ方がストレスが無い」と気づく。
現在は集客, 販売, サービス提供を仕組み化(自動化)。
■活動目的
「自由な人生を実現したい」
「ネットビジネスに興味がある」
「始めたけど結果が出ない」
という人へ最適解を提供。
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