目に見えて増えてきた「スマホでQRコードを読み込み、注文はすべて自分の端末で完結」するタイプの飲食店。
人材不足が深刻化する中、DX(デジタルトランスフォーメーション)への期待値は高い。
けれど、実際に使ってみると「注文するまでに複雑な操作がいる」「食事中にスマホを触りたくない」など、抵抗感を覚える人も多いのが現状だ。
この流れは単なる一時的ブームなのか、それとも外食産業の未来を担う本命のシステムなのか。
利便性を感じる人がいる一方で、強い不満を抱えている人もいて、SNSでは賛否両論の声が相次いでいる。
この記事では、スマホオーダーオンリーの飲食店が抱える問題点や導入する側のメリット・デメリットを多角的に紐解いてみたい。
さらに、なぜこんな状況になってしまうのか、どこに落としどころを見いだせるのか、人材不足との兼ね合い、店舗オペレーション全体から考えた解決策などにも触れていく。
読んだあとに「スマホ注文オンリー、まあアリかも」「いや、やっぱりキツいわ」と思うかは人によって異なるだろうが、単純な“好き・嫌い”の議論だけで終わらせないよう、多面的に考察してみよう。
1. スマホ注文オンリーが広まる背景
まず確認しておきたいのは、なぜいま「スマホ注文オンリー」というスタイルが注目されているのかという点だ。
もともと大手外食チェーンが「注文専用タブレット」をテーブルに配置していた流れは、ここ数年で急激に拡大していた。
ファミリーレストランや居酒屋など、タブレット越しに注文する仕組みが当たり前のところも増えた。
そこからさらに一歩進んだのが「タブレットすら置かず、客のスマホで完結させる」という発想。
店側にとっては導入コストを抑えやすい。タブレットを各テーブルに導入すれば、端末の購入・メンテナンスにかかる費用が膨大になるからだ。
加えて、人件費の高騰やアルバイトの確保が難しくなるなか、接客スタッフを減らす目論見もある。
また、コロナ禍がデジタル化を後押しした面もある。
接触機会を減らすため、非接触型の注文方式が脚光を浴び、スマホを使ってメニューを閲覧・オーダーするスタイルを早い段階で取り入れた店も出てきた。
キーワード
- 導入コストの低減:タブレットや端末を揃えるよりずっと安い
- 人材不足対応:スタッフを最小限に絞ってもまわしやすくしたい
- コロナ禍での非接触需要:キャッシュレス・注文のデジタル化の加速
2. スマホオーダーのメリット:店側・客側それぞれの視点
「スマホ注文、便利じゃない?」と感じる人も一定数いるのは事実だ。
どういった部分を“メリット”と捉えているのか、店側と客側それぞれの視点から見てみよう。
店側のメリット
- 人件費の削減
注文を取りに行く手間が減れば、ホールスタッフの数を減らせる。
配膳や下げものなど、他の作業にリソースを回すことが可能になる。人手不足の時代には大きい。 - オペレーションの効率化
データが自動でPOSレジに連携されるシステムなら、手書き注文の入力ミスやスタッフ間の伝達ミスも減る。厨房へのオーダー伝達もスピーディーになる。 - 追加注文が増えやすい(場合もある)
人によっては好きなタイミングで何度でも注文できるので、追加のドリンクやデザートなどのオーダーが増える傾向が見られるという声もある。
客側のメリット
- 複数人で行ったときの手軽さ
大衆居酒屋のように複数人で訪れる店では、それぞれがスマホ操作で好きなタイミングに注文を入れられるので、「注文まとめ役」がいなくてもスムーズ。 - メニューを自分のペースでじっくり見られる
写真や商品情報が充実していれば、焦らず選ぶことができる。紙のメニューがあっても、細かい説明がスマホ画面で補足されていることがある。 - 待ち時間の短縮
忙しい時間帯にスタッフを呼ぶことなく、ボタン一つで注文が飛ぶので、店員を捕まえられないイライラがなくなる場合もある。
3. SNSで炎上気味?不満が噴出するワケ
利点だけ挙げていれば「結構いいじゃん」と思えるスマホオーダーだが、現実にはSNSで「めんどくせー」「もう二度と行きたくない」と強く否定的な意見が出ている。
なぜ、ここまで反感を買いやすいのか。その理由を大きく分けて3つに整理してみた。
- 使い勝手が悪い/UIが分かりにくい
スマホでの注文サイトやアプリが複雑で、カートに入れてから注文完了までのステップが多すぎるケースがある。
QRコードを読み取り損ねたり、ブラウザを閉じたらやり直しになったり。特に年配の人だと最初から手こずってしまい、店員を呼んでも店員も使い方を把握していなかったりするとストレスは絶大になる。 - 「食事中にスマホを触りたくない」派への配慮が欠けている
指が汚れやすい料理(手づかみ系の料理やソースの多い料理)を食べている途中にスマホを触らないといけないのが嫌。いくらおしぼりで拭けばいいと言われても、気分的にスマホをいじりたくないと感じる人は一定数いる。そもそも食事中くらいスマホから離れたいという意見もある。 - LINE登録やアプリダウンロードの強制
「公式LINEアカウントに登録しないと注文が進められない」「専用アプリをインストールしないと動作しない」などの店もある。
LINE登録はプライベート感が強い上に、不要な宣伝メッセージが届くリスクを嫌う人も少なくない。
アプリに至ってはダウンロードに時間がかかる、通信量を取られる、端末容量が圧迫されるといったデメリットもあり、敬遠されがちだ。
4. 実際に起こっている困りごと・ストレスの具体例
スマホオーダーが浸透し始めてから、ネット上でよく見かける“困りごと”をいくつか挙げてみる(※事実として多数のユーザーが指摘している内容)。
- 【操作ミス連発】
タップの反応が悪かったり、選択したつもりの料理がカートに入らなかったり。
確認しないまま注文を進めてしまうと、意図しない品目が届くことも。紙メニューに慣れきった人が急にスマホ操作を求められると起こりがち。 - 【通信トラブル】
店のWi-Fiが弱い、もしくは来店客の数に対して回線がパンク気味で、なかなか接続できない。トンネルや地下など電波が届きにくい場所にある店舗だと特に顕著。QRコードを読み取り中にタイムアウトしてしまい、何度もリトライを繰り返すはめになる。 - 【バッテリー切れの不安】
入店前にスマホの電池が残り少なかった場合、「この店では注文にスマホが必須」と言われると焦る。充電を頼んでも、コンセントや貸し出しモバイルバッテリーが用意されていなかったりする。 - 【サポート体制の不備】
「説明もない」「スタッフもシステムに詳しくない」という店に当たると、結局店員を呼んで口頭注文する羽目に。なら最初から紙メニューでいいじゃん…と感じてしまう。
5. 人手不足は本当に解消するのか?オペレーション全体の課題
飲食店側がスマホオーダーに期待する大きな理由として「人手不足対策」がある。
たしかに、ホールを広く持つ店舗では、注文を取りに行く手間が大幅に省けることは魅力的だ。
ただし「じゃあ、これでスタッフ数をガクッと減らしても大丈夫なのか?」となると、そう単純でもない。
- 【接客が完全に不要になるわけではない】
スマホで注文ができても、料理の配膳やドリンクを運ぶ、空いた皿を下げる、追加の問い合わせに応じるといった業務は変わらず必要。結果、オーダー取りが不要になった分を、どこまで効率化に回せるかがカギだが、想像より大きな人員削減効果が出ない店もあるようだ。 - 【トラブル対応で逆に手間が増えることも】
操作ミスや注文画面がうまく開かないなど、機械トラブル的な問い合わせが多発すると、スタッフがそちらの対応に追われる。慣れない年配客が多い店だと、かえって混乱を招きかねない。 - 【客単価アップ? ダウン?】
“好きなタイミングで気軽に追加注文できる”という利点を活かして客単価が上がる場合もある一方、「なんか面倒で追加注文やめとこう」と心理的ハードルを感じてしまう人もいる。店の形態や客層によってどちらに転ぶか分からない。
結局、人手不足の背景には「そもそも飲食業の賃金水準が低い」「ブラックな労働環境と思われている」など根の深い問題がある。単純にスマホオーダーを導入すれば解決するというほど甘くない。
6. “無理やりDX”の落とし穴:機能が増えるほど不便になる paradox
飲食店のDXをコンサルタントが提案してくるケースも増えている。
確かにコンサルが持ってくるシステムには多機能で華やかな面がある。
クーポン配信や会員管理、メニュー管理、在庫管理など、一括でデータを集約できれば、マーケティングにも活かせるだろう。
ただ、一度に機能を詰め込みすぎると、結果的に「使いにくい」システムになるリスクが高い。
顧客目線でみると、要らない登録や画面遷移が増え、店員が説明に手間取る。
店舗側も「導入したのはいいけど、実はちゃんと使いこなせていない」という事態に陥りやすい。
- 【オールインワンシステムの弊害】
在庫管理と注文システムを連携させて自動化しようとしたが、システム障害が起こったときに注文も在庫管理も全部動かなくなる…なんてこともあり得る。いったん落ちたら復旧まで店が機能しないというリスクは無視できない。 - 【登録を強いるデータマーケティング】
店側が顧客情報を集める目的で、アプリやLINE登録を必須にしたがるケースがある。だが強制されると、ユーザーの印象は“マイナス”に転じる。こっそり離れていく客も少なくない。
7. スマホ注文導入の成功事例・失敗事例:何が決め手?
スマホ注文自体を否定している店は一部しかない。
むしろ、うまく活用している店もある。どのへんが成否の分かれ道になるか、ポイントを整理してみる。
- 【成功事例】
- システムがシンプルかつサクサク動く
- 面倒な登録や会員化を“任意”にする(クーポン利用の際だけLINE登録など)
- Wi-Fi環境がしっかり整備されていて、ネットがスムーズ
- メニューや画面が直感的で迷いにくい
- 万一のトラブルに対応できるスタッフを配備
- 【失敗事例】
- 強制的に「アプリDL→会員登録→SNSログイン」などフローが複雑
- 店側スタッフも使い方を理解しておらず、説明ができない
- 接客を省きすぎて「呼んでもなかなか来ない」状態が慢性化
- 結局、操作不慣れなお客さんからクレームが増え、リピーターが減る
8. 代替案としてのタブレット・ハイブリッド方式
コストはかかるが、全テーブルにタブレットを設置すれば、客のスマホ環境に依存せずに注文を完結できる。
ファミリーレストランや大手居酒屋チェーンが導入している例が多い。
ただし「タブレットを置くと雰囲気がファミレスや居酒屋っぽくなるから嫌だ」という店舗もあるのは事実。
それに対しては、「通常は紙メニューと口頭注文」「スマホ注文を希望する人にはQRを案内」というハイブリッド方式を取っている店も見受けられる。
- メリット
- 幅広い客層をカバーできる
- 古いスマホしか持っていない、あるいはバッテリーが少ない客も救済できる
- 店員を呼ぶ敷居が下がる(紙やタブレットを置いておけば“声かけ”も当然アリ)
- デメリット
- タブレット端末を導入するコスト・メンテナンス費用は馬鹿にならない
- 店が目指す“落ち着いた雰囲気”を損ねる恐れ(端末が置かれているだけでイメージダウンと感じる客もいる)
「スマホ注文を導入すれば人手不足が一気に解消し、売上も伸びる」なんてうまい話はそう多くない。
ハイブリッド方式を取ることで、客が自由に選択できるのが理想とはいえ、設備投資や運用コストがかさんでしまうジレンマもある。
9. LINE登録必須やアプリ強制は是か非か
“囲い込み”を重視するあまり、初めて利用する客に「LINE登録しないと注文できません」「まずはアプリをDLしてください」という店は少なくない。
マーケティング的には「リピート率アップの効果が見込める」と言われる反面、嫌悪感を示す人も確実に存在する。
- 嫌悪感の理由
- 個人情報やプライバシーへの懸念(LINE友達リストに店舗が入るのが嫌)
- アプリをダウンロードする手間・スマホ容量を圧迫されたくない
- 不要なプッシュ通知が増える恐怖
- 店側の打ち手
- 新規客には登録を“促す”程度にとどめ、クーポンを配るなどメリットを強調
- 常連客には特典を手厚くする代わりに登録してもらう
- 登録が必須ではない余地を残しておく(どうしても嫌な人を無理矢理囲い込もうとしない)
結局のところ、強制したところで「もう二度と行かない」と思われてしまえば元も子もない。
気分よく使ってもらったうえで、自然に登録してもらうのが理想だ。
10. これからの飲食店DXを考える:顧客のストレスと店のコストのバランス
人件費の上昇、少子高齢化によるアルバイト不足、コロナ禍を経た非接触ニーズの高まり……。
スマホオーダーオンリーに限らず、飲食店のDXは加速していくことが予想される。
しかしながら、DXの手段として「スマホオーダーを導入しよう」と思っても、システム導入費を払うだけでは済まない。
顧客との接点や、現場オペレーションに潜む課題を徹底的に洗い出さないと、かえってクレームが増え、スタッフの負担も増え、売上低下につながりかねない。
今後は、「店内オーダーの仕組み+セルフレジ+配膳ロボット+キャッシュレス決済」 といったように、複数のDX施策を組み合わせる形が主流になっていくだろう。
その中で「スマホ注文オンリー」はあくまで一選択肢に過ぎない。
それを主軸にするなら、
- どんな客層がターゲットなのか
- スマホを当然使いこなす若年層がメイン客なのか、それとも幅広い年代層が来るのか
- 店側のブランドイメージと相性がいいかどうか
といった条件を吟味する必要がある。
11. まとめ:客層と導入目的を見極めたシステム選びが肝
スマホ注文オンリーは「安価に」「スピード重視で」「人手不足を補う」手段として注目されているものの、一歩間違えれば顧客満足度を下げ、売上に悪影響を及ぼす可能性もある。
実際、SNS上では不満の声がとても多い。
だからこそ、ただ導入すればいいというものではなく、“誰のために”“どんな目的で”導入するのかをはっきりさせておくべきだ。
もし店舗のコンセプトが「接客重視」であり、コミュニケーションを大切にしたいなら、スマホオーダーの導入は慎重に考えるほうがいい。
客が紙とペンで注文できる安心感を求めているかもしれないし、ひょっとすると口頭のやり取りに付加価値を感じるかもしれない。
逆に、回転率重視の居酒屋や、若者向けの軽食チェーンなどはスマホオーダーを上手に活かせるかもしれない。
結局のところ、DXとは“最先端のシステムを入れる”こと自体が目的ではなく、“店の経営課題を解決し、顧客満足度を高める”ための手段であるはず。
短期的なコスト削減を優先して導入し、結果的に“顧客体験を悪化”させるなら、本末転倒だ。
今後も飲食店のデジタル化の波は続いていくだろうが、最終的には「人の手でサポートしなければならない部分」が必ず残る。
スマホオーダーオンリーを選択するなら、その“サポートの落としどころ”を見極めることが何より重要になる。
【あとがき】
「スマホ注文めんどくせーな」「タブレットぐらい用意しろよ」などの声がSNSで散見されるのは、いわば“現行システムと実際のニーズのミスマッチ”が可視化された証拠。
店側は導入の際に「本当にスマホオンリーでいけるのか?」を冷静に見極めないといけないし、客側も「こういう時代なんだな」と心の準備をしたうえで、使い勝手を店にフィードバックしていくことも大事だろう。
スマホオーダーはまだまだ発展途上と言える。けれど、人手不足や非接触需要といった背景を考えれば、この波は簡単に引かない。
むしろ、これからの飲食業界はタブレットやスマホ、ロボットなどのテクノロジーと接客の融合を模索し続けることになるはずだ。
そこに“人間味のあるホスピタリティ”をどう重ね合わせるかが、真の勝負どころでもある。
■追伸:ビジネスを自動化するための無料講座
「ネット集客と販売を自動化するなら, 最低限これだけは知っておきたい」という内容を1冊の教科書としてまとめました。
また, 最近のAIの台頭を受けて, これをどう捉え, どう使うかといった内容も加筆しています。
投稿者プロフィール
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近況:Netflix, ゲーム, 旅, 趣味の日々。
■趣味
読書, 映画鑑賞, 音楽, 旅行
■ビジネス歴
・2011年9月頃にオンラインビジネスに参入
└ブログ, SNS運用, YouTubeなどの各ジャンルを経験
・オンラインビジネスチームへの参画
└各プロモーションのディレクター兼コピーライター,
他社へのコンサルティングなどを経験
└他社とのジョイントベンチャー(共同事業)
└海外スタートアップへの参加(コミュニティマネジメント, コピーライター)
■現在
・オンラインスクールの運営
・個人, 法人向けのマーケティング, 商品開発等のサポート
■考え方
バイト, 会社員, フリーランス, 経営者...などの働き方を経験した結果,
「群れるより1人で稼ぐ方がストレスが無い」と気づく。
現在は集客, 販売, サービス提供を仕組み化(自動化)。
■活動目的
「自由な人生を実現したい」
「ネットビジネスに興味がある」
「始めたけど結果が出ない」
という人へ最適解を提供。
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